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デジタルセラピーが発達しょう害を改善 初期の認知症治療に一定の効果


デジタル技術の進化により、医療やヘルスケア分野は黎明期を迎えた。特にアメリカは多様な価値観が共存した国で、新しい技術に対する受容性も高いことから、最先端のデバイスやアプリを活用した治療は日本の10年、20年先を行っている感がある。日本において、デジタルセラピーの普及のために活動している、精神保健福祉士の中川朋先生に、今後の展望を伺ってきた。

中川 朋 氏

精神保健福祉士・ニューロセラピスト / ベスリ・クリニック 神経治療ディレクター / 株式会社ホールネス 代表

10年以上の米国駐在中に米国大学研究機関等との提携事業においてバイオフィードバック療法の世界的権威であるサンフランシスコ州立大学統合医療研究所教授、エリック・ぺパ―博士に師事。帰国後は、精神保健福祉士として国内医療機関でバイオ・ニューロセラピストとして従事。発達障がい児童及びグレーゾーンのメンタル・リハビリテーションに関わる。利用者の心身の悩みを軽減し、毎日を活き活きと行動できるよう遠隔支援サービスを提供中。翻訳書に「テックストレスから身を守る方法」(エリック・ペパー著 竹林直紀監修 青春出版社)がある

デジタル医療の盛んなアメリカでは、すでに保険診療として確立されている

中川先生はもともと心療内科の領域でバイオフィードバックとニューロフィードバックと呼ばれるデバイスを活用した治療を実践してきた。
これらデバイスを簡単に説明すると、バイオフィードバックは、自律神経系を中心とした精神生理学的な機能評価を行うことで個々人のストレスの度合いや特性を測定し、適切なトレーニングによりレジリエンスを鍛え上げることに役立つ。
ニューロフィードバックは、脳波に特化したバイオフィードバック法で、誤解を恐れずに言えば脳波の状態を無意識下でコントロールできるようにする手法。
メカニズムとしては脳活動の状態をコンピューターが読み取り、目的とする脳波がうまく出ている間にのみモニター画面が進んだり、心地よい映像や音が流れるような仕組みで、ゲーム感覚で楽しみながらトレーニングをすることができる。
脳は望ましい脳波の状態をフィードバックされると、自律的に新しい神経ネットワーク回路を形成し、より望ましい状態になるように変化する。トレーニングを重ねていくうちに外部からのフィードバック信号がなくても正しい脳波を保つことができるようになる。
ニューロフィードバックの臨床が盛んなアメリカでは、アスペルガー、ADD、てんかん、うつ病、睡眠障害、PTSD、軽度の認知症などの精神疾患の治療に効果があることが示されてきた。
現在では、これら疾患の心理療法として一定の評価が確立されており、米国では民間保険での診療がスタンダードとなっている。 
またニューロフィードバックはメンタル面での不調に対してだけでなく、音楽やスポーツのパフォーマンス向上にも効果が見られることから、ビジネスマン向けの能力開発、アスリート向けのパフォーマンス・トレーニングとしても有効な手段として活用されている。

画期的な脳育アプリの登場

今回、あらたに中川先生が広めようとしているのは「ニューロフィードバック」を応用した脳育アプリケーション。
シンガポールに本社を持つNeeuro社が開発したセラピープログラムで、10 年にわたる臨床研究と試験を経て実用化された。
臨床試験ではADHD を持つ子供たちに同アプリを使った脳トレーニングを8週間に渡って行ったという。
その結果、脳トレーニングを受けていない子供達と比較し、不注意や衝動などの問題行動が大きく改善したと同時に認知機能が劇的に高まったことが証明されている。
さらに臨床試験を進める中で、認知機能の向上は、初期の認知症にも効果的なことがわかった。

エビデンスに基づいた効果のある脳育アプリを気軽に使ってもらえる形で提供したい

ニューロフィードバックの第一人者である中川先生は、Neeuro社の脳育アプリの監修に携わった。
脳育アプリの優れた効果に日本でも広めるべく、クラウドファンティングを立ち上げた。その真意と意義を次のように語る。
「私は、東京都内の心療内科クリニックを中心に、精神保健福祉士としてニューロ&バイオフィードバック療法に長年携わってきました。 現在は、遠隔セッションを中心に数か所のクリニックで心療内科・精神科医師と連携し、発達障がい・認知障がいの方やグレーゾーンでお悩みの方に、最新のデジタル機器を使用したセラピーを行っています。
クライアントさんと共にセッションを繰り返し、臨床を積み重ねていく中で、日々、確かな手ごたえを感じています。
そんな中、発達障がいや認知力に問題を抱える方々と接する中で、いわゆる“グレーゾーン”とよばれ、公的支援を受けられない患者さんの多さに心を痛めてきました。
私の臨床経験からも、医療連携と最新機器を使った「デジタル脳育」を組み合わせれば、この課題の多くが快方へと向かい、多くの方々の生活を改善できると確信しています。
この度のクラウドファンディングは、海外製「デジタル脳育」アプリの国内普及を通して、発達しょう害・認知障害・グレーゾーンでお悩みの誰もが、必要な支援を受けられる未来を一緒に創りたい、そんな思いで立ち上げました。

将来的にはエステサロンや治療院でも活用いただける、デジタル脳育

デジタル脳育とは、デジタル機器を通じて脳波と連動し、ゲーム感覚で遊びながら心と身体のバランスを回復するセラピーです。成長期のお子さんから、認知症予防を必要とされるご高齢の方まで幅広く活用していただけます。
このデジタル脳育システムは、従来の脳トレとは一線を画すもので、個々人の脳波状態に合わせてリアルタイムに調整し、集中力を高め、脳機能を向上させるという革新的なAI技術を搭載しています。
脳の発達状況をAI機械学習アルゴリズムが判断して誘導するため、熟練したセラピストでしか提供できなかった効果を、誰もが手軽に、継続的に体験できることから、将来的にはエステサロンや治療院でも活用いただけると考えております。
まずは、クラウドファンディングを経て実験的コミュニティ共同利用方法を確立して、このノウハウを皆さまとシェアしながら、将来的には、全国にコミュニティーを広げ、誰もが時間、場所、経済的な制約を受けずに脳育療法を受けられる環境を実現したいと考えています。

執筆
代田 多喜子

健康ジャーナルライター

ホリスティック・ ジャーナル

編集長 代田 多喜子


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