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東洋医学から見た「首」と「こころ」 ストレートネックと巻き肩を自分で整える

首凝り

鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師
船水 隆広 氏

船水 隆広

[プロフィール]
学校法人呉竹学園 臨床教育センター Manager。
「てい鍼テクニック TST(Takahiro Style Technique)」の発案者として、刺さない鍼=てい鍼を用い、「気を操り、からだとこころの両方を整える」独自のメソッドを確立。25年以上にわたり国内外で臨床と教育に携わり、欧米やアジア各国でも鍼灸指導を行っている。
TST美容てい鍼術では、まず全身の治療で健康状態と気血津液のめぐりを整えたうえで、顔面部に気を注ぎ、内側からにじむ「真の美しさ」を引き出すことを重視。東洋医学の経脈・経穴・陰陽五行論・臓腑学と、西洋医学の解剖生理学の両方に基づいた施術で、美容トラブルだけでなく不調の根本原因にもアプローチする。専門はストレスケアやこころの病に対する経絡治療およびてい鍼術。心身健康科学修士、経絡治療学会理事、日本伝統鍼灸学会理事、日本更年期と加齢のヘルスケア学会幹事、多文化間精神医学会会員、(一社)こころ鍼灸協会理事として、東洋医学と西洋医学を架橋し、「美しさ」と「こころの健康」が両立するケアの普及に取り組んでいる。

首は「こころ」のバロメーター

天井を30秒見上げていられますか?
そう問いかけるのは、「てい鍼テクニック TST」の発案者であり、28年以上の臨床経験をもつ鍼灸師・船水隆広先生です。心身健康科学修士として、ストレスケアやこころの病に対する経絡治療を専門にしながら、東洋医学と西洋医学の両面から“姿勢と健康”を見つめ続けてきました。
先生によると、うつ病や自律神経の不調を抱える人の多くに共通するのが、「うつむいた姿勢」「丸くなった背中」「前に突き出た首」だといいます。
「本当に元気な人で、常にこんな姿勢の人はいません。久しぶりに会った人が、以前は胸を張って歩いていたのに、いつの間にか背中が丸くなり、首が前に落ちていたら、心身の不調が始まっているサインと考えます」と船水先生。
東洋医学では、気血(水を含む)の流れが滞ることを「気鬱(きうつ)」と呼びます。
ここから現代医学の「うつ病」という言葉も生まれました。首や肩まわりが固まり、呼吸が浅くなると、血液循環も悪くなり、自律神経が乱れ、気持ちも落ち込みやすくなります。
つまり、姿勢は単なる“見た目”ではなく、こころのコンディションを映す鏡でもあるのです。

まずはチェック!ストレートネック簡易セルフテスト

スマホやPC時間が長い現代人に急増しているのが「ストレートネック」。本来、前方にゆるやかなカーブを描く首の骨が、まっすぐになってしまった状態です。先生がすすめる簡単なセルフチェックは次の通りです。
背筋を伸ばして、椅子に浅く腰かけるか、立った状態で「気をつけ」の姿勢をとる
肩をすくめたり、反らしたりせず、そのまま“顔だけ”をゆっくり天井に向けていく顔の面と天井が平行になったところで止め、その姿勢を30秒キープする
このとき、途中で首や肩に「ピキッ」とした痛みが出ると顔が十分に上がらず、代わりに腰や背中を反らしてしまう30秒がとても長く感じ、途中で耐えられない。
こうした場合は、すでにストレートネック傾向にあると考えられるそうです。
「中学生でも、このテストができない子がたくさんいます。そのまま放っておくと、側弯(背骨のねじれ)や呼吸の浅さ、代謝の低下、さらには病気のなりやすさにもつながっていきます」と先生は警鐘を鳴らします。

船水 隆広

船水 隆広

巻き肩チェックと「立ち方」の見直し

もう一つ、現代人に多いのが「巻き肩」です。肩が前に入り、胸がつぶれたような姿勢になっている状態で、首や肩こりだけでなく、見た目の老け感にも直結します。
巻き肩のセルフチェックはとてもシンプルです。楽な服装でまっすぐ立ち、「気をつけ」の姿勢をとる正面から見たとき、手の甲が少し見えているかどうかを確認。
本来は、肩甲骨がしっかり動いていると、腕は身体の横に自然にぶら下がり、正面からわずかに手の甲が見える程度になります。ところが巻き肩の人は、腕全体が内側にねじれ、正面から見ると手の甲がほとんど見えない、あるいは親指側だけがくっきり見える、といった状態になっているのです。
さらに、壁を使ったチェックも有効です。かかと・お尻・後頭部を壁につけて立ち、腰の後ろのすき間に、手のひらを差し入れます。
このとき、腰と壁の間に大きなすき間があって手のひらがスカスカ抜けてしまう人は、腰を反らして無理に姿勢を保っている可能性があります。反対に、後頭部が壁につかない場合は、首が前に出ている証拠。どちらも、ストレートネックや巻き肩とセットで出やすい歪みです。

今日からできる「ストレートネック&巻き肩」セルフケア

では、こうした姿勢の崩れを、自分で少しずつ整えていくにはどうしたらよいのでしょうか。船水先生に、日常生活の中で取り入れやすいセルフケアを教えていただきました。

① 首の「30秒リセット体操」

先ほどのストレートネックチェックを、そのままセルフケアとして行います。
背筋を伸ばして座るか立つ肩の力を抜き、肩の位置は動かさない。ゆっくりと顔だけを天井に向け、無理のない範囲で上を向く心地よい伸びを感じるところで、呼吸を止めずに30秒キープ。
これを1日数回、仕事や家事の合間に行うだけでも、首の前側の筋肉が伸び、スマホやPCで前に落ちてしまった頭の位置をリセットできます。
「いきなり頑張りすぎる必要はありません。最初は10秒からでも構いません。『昨日より少し楽に上を向けた』という小さな変化を積み重ねることが大事です」と先生。

② 肩甲骨をゆるめる「肘寄せ体操」

巻き肩の改善には、肩そのものより「肩甲骨」の動きが重要です。背筋を伸ばして座るか立ち、両肘を体側につけるように軽く曲げる。そのまま肘を身体から離さずに、手のひら〜手の甲を、鼻の前までゆっくり持ち上げる肩甲骨が背中でキュッと寄る感覚を味わいながら、ゆっくり戻す。
これを数回繰り返すだけで、固まった肩甲骨周りの筋肉がほぐれ、胸が開きやすくなります。お風呂の中やテレビを見ながらでもできる、地味ですが効果的な体操です。

首を整えることは「呼吸」と「メンタル」を整えること

首凝り

首が前に落ち、背中が丸くなると、胸がつぶれ、横隔膜の動きも小さくなります。その結果、呼吸は浅くなり、酸素が十分に取り込めなくなり、疲れやすさや集中力低下につながります。
「背筋を伸ばして、軽く胸を開き、首のカーブを保つだけで、呼吸は深くなり、自律神経も整いやすくなります。東洋医学でいう『陰陽のバランス』が、自律神経のバランスそのものなんです」と先生は説明します。
美しい姿勢には、血流と代謝を高め、肌色を明るく見せる“美容効果”もあります。首のシワやたるみが気になり始めた世代にとっても、スキンケアや美容医療だけに頼らず、「首の位置」「肩の向き」を整えることは、実はとても大切なケアなのです。
最後に、船水先生は「難しいことをしなくても、『まっすぐ立つ』『天井を見上げる』『肩甲骨を動かす』。この3つを毎日の習慣にしていただくだけで、首や肩の負担は確実に減ります。姿勢が整うと、呼吸が変わり、血の巡りが変わり、こころの状態も変わってきます。きれいな姿勢は、一番身近で、コストのかからない予防医療なんです」。
鏡の前でスキンケアをするように、今日から「首の角度」と「肩の位置」を意識してみる。それは、外見の若々しさだけでなく、こころと身体の両方を守る、シンプルだけれど力強い第一歩になりそうです。

執筆
代田 多喜子

健康ジャーナルライター

ホリスティック・ ジャーナル

編集長 代田 多喜子


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