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フェムテックの今 日本初の膣プランナーが語り続ける、女性のためのカラダ革命

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近年、「フェムテック(Femtech)」という言葉が日本でも耳にされるようになってきました。月経や妊娠、更年期といった女性特有の健康課題に対して、テクノロジーや製品で解決を図ろうとするこの分野は、欧米ではすでに数十年の歴史を持ち、ケア用品や教育が一般化しています。しかし日本では、いまだ“恥ずかしい”“話題にしづらい”という空気が根強く残り、教育も商品開発も大きく遅れをとっています。そんな中、20年以上前から“膣ケア”の必要性を訴え続けてきた女性がいました。“膣ねえ”の愛称で知られる山口明美さんがその人です。今回、山口さんに膣や性、排泄といった「タブー視されがちな身体のリアル」に正面から向き合うことの大切さを伺ってきました。

膣プランナー 山口明美さん

【プロフィール】
日本初の「膣プランナー」として知られ、美容業界で約30年の経験を持つ専門家。19歳でエステティシャンとしてキャリアをスタートさせ、エステサロン事業部の統括マネージャーや美容機器販売で6年連続トップの実績を持つなど、多くの功績を残しています。かつて彼女自身が生理痛や子宮内膜症、出産時の会陰裂傷など、婦人科系の不調に悩まされた経験から「膣ケア」と「膣トレ」の大切さを痛感。以来、自らの経験を基に、女性の「美容寿命」と「健康寿命」を延ばすことをモットーに、膣ケアの重要性を広める活動を行っています。現在は、株式会社3FACEの代表取締役として、フェムテック関連のセミナーや商品開発、コンサルティングなど幅広く活動。

出発点は、誰にも言えない絶望だった

出産後、彼女は気づいた。くしゃみひとつで、尿が漏れる。走ることも笑うことも怖い。大きな赤ちゃんを出産した代償は、想像以上に深刻な「排泄障害」。
「2ヶ月経っても、大人用おむつが手放せなかったんです」
そう振り返るのは、今や“膣ねえ”としてフェムテック界に名を馳せる山口明美さんです。
続けて「恥ずかしい話なんですけど。産後の尿漏れって、軽く扱われがちだけど、私にとっては日常生活が壊れるほどの出来事でした」と語ります。
病院で処方されるのは、排尿を抑制する薬。ですがそれは“根本治療”ではありませんでした。  何年も彼女を苦しめた排泄障害から救ったのは、助産師から教わった“ケーゲル体操”──肛門と尿道を意識的に締めて緩める運動だったのです。  「毎日地道に続けていたら、3〜4ヶ月で嘘のように尿漏れが消えたんです。『筋肉って戻るんだ』って、そこで初めて確信したんです」。

骨盤底筋が「クォリティオブライフの鍵」だと気づいた日

「解剖学の本を開いたら、“骨盤底筋群”ってちゃんとあるんですよ。でも、当時は誰も注目していなかった」。
エステティシャンとして美容業界に身を置いていた山口さんは、美しさの裏にある身体の構造に着目し始め、独学で勉強する中で気づいたのが「顔のケアをするように、膣にもケアが必要」という事実。膣プランナー山口明美さんが誕生した瞬間です。

膣のケアは、恥ずかしいことじゃないー

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そう確信した彼女は、外性器専用の洗浄剤、粘膜に優しいオイル、菌のコントロール……。まだ“フェムテック”という言葉すらなかった20年前から、個人輸入でこれら海外製品を取り寄せ、自らの身体で試してきたといいます。
「黒ずみが消えたり、ニオイが軽減したり。そういう“見えない変化”が、女性の自信を取り戻すのです」。
だが日本では今も、膣という言葉すら口にしにくい空気が。「恥ずかしい」「そんなところにお金をかけるなんて」と、偏見や無関心が根強い。

すべての女性に、膣を見る勇気を

こうした偏見や無関心を変えるべく、山口さんは自身の体験と知識を啓蒙する活動を始めました。それが「フィメールカレッジ」でセミナーや勉強会を通して膣プランナーの育成を目的としています。
「膣は“粘膜”なんです。目や口、鼻と同じく、細菌やウイルスが侵入しやすい場所。だからこそ、菌のバランス=膣内フローラの管理が重要」と語る山口さんは、膣内の善玉菌(主に乳酸菌)の比率を調べる「エマ検査」に着目。不妊治療と乳酸菌の関係を知り、教育や発信に力を入れてきました。
5年前からはじめた「フィメールカレッジ」では、すでに700人以上の美容・介護・整体関係者が“膣プランナー”として育っています。
「自分の膣を見たことがない女性が多すぎる。でも、一度鏡で見てみて。そこから“変化”は始まるんです。知らなければ、守れないんです。自分の身体のことを知らずに、健康も幸せも語れないでしょう?」と山口さん。
フィメールカレッジの他に膣ケアサロンも運営し、外性器周辺のケアやマシン導入による“フェミニンフェイシャル”を提供。ケアの効果を“写真”で記録し、自分の身体と向き合うきっかけを作っています。

粘膜が「美」を吸収する──幹細胞コスメの最前線へ

カレッジやサロン運営の他に膣プランナーとして様々なメーカーの製品をプロデュースも行っている彼女が開発を進めているのは、ImS(不死化)幹細胞培養上清液を配合した「膣専用オイル」。
表皮よりも吸収力の高い膣粘膜に、有効成分を安全に届ける設計。「粘膜って、よくも悪くも“全部吸収する”。だからこそ、使うものは徹底的に安全で効果的であるべきなんです。
今後はクリニックと連携してヒアルロン酸注射やレーザー施術との相乗効果も進めていく予定です。
膣ケアをすると、ホルモンが整う。不調が減る。自信が持てる。性生活も、パートナーシップも、変わる。すべてがつながっているんです」
20年前、排泄障害に苦しんでいたひとりの女性は、いま“膣を語ることを恐れない”先駆者になった。
「私は自分を救ってくれた“膣ケア”を、今度は誰かのために伝えたい。それが私の使命なんです」。

フェムテックを学ぶ フェムカレ

「流行」としてフェムテックを取り入れるのではなく、「社会の当たり前」としてフェムテックを学んで、一生の事業にするということを目的としています。
執筆
代田 多喜子

健康ジャーナルライター

ホリスティック・ ジャーナル

編集長 代田 多喜子


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