乳幼児の臀部の肌状態に腸内細菌類が関わっている可能性を発見

花王・サニタリー研究所は、乳幼児の腕や額、臀部の肌に存在する菌の量や菌叢（菌の集まり）の実態を調査し、臀部は他の部位より菌量が顕著に多く、相対的に腸内細菌類が多く存在していることを発見しました。
さらに臀部の皮膚上の菌の種類と皮疹（皮膚に出来る赤みや発疹）との関係性を検討したところ、皮膚上の腸内細菌類の存在比率が低いほど、肌状態が良好であることを確認しました。皮膚における腸内細菌類と常在菌のバランスが肌の状態に影響することが考えられます。今回の研究成果は、地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター皮膚科部長の馬場直子氏の指導と協力のもと行われ、日本小児皮膚科学会第 47 回学術大会(2023年7月15〜16日・大阪府)にて発表されました。

2023.09.20

腸管上皮細胞と腸内細菌を同一環境で培養。ヒト腸管を人工的に再現

島津製作所は、2023年6月22日に「腸内細菌共培養デバイス」のテスト販売を開始しました。この製品は、ヒトの腸内環境を再現した細胞培養装...

乳幼児の皮膚（前腕・額・臀部）の菌量や菌叢の実態

生後3〜24か月の乳幼児30名より、前腕、額、臀部の皮膚上の菌を採取（額と前腕の菌の採取は、保護者が朝に専用の綿棒を用いてふき取ることで行いました。臀部の菌の採取は、前日の入浴から翌朝まで排便をしていない日に同様の方法で行いました）し、次世代シークエンサーを用いて菌叢解析（細菌が持つ16SrRNA遺伝子(16SrDNA)の配列を解読することにより、どの菌が相対的にどれくらい存在するかを調べる方法）を行いました。すべての部位の菌叢が解析できた乳幼児を対象とし、各部位の菌量や菌叢を比較した結果、乳幼児の臀部の皮膚の菌の総量は、額と比べて有意に多いことがわかりました（図1)。

図1

また、各部位における皮膚常在菌や口腔内常在菌、腸内細菌の相対存在比率を検討した結果、臀部の皮膚は、前腕や額と比べて腸内細菌類の存在比率が高く、月齢が低い乳幼児は、その傾向が強いことがわかりました(図2)。

図2

この結果から、臀部は菌量や菌の種類で他の部位と異なる特徴があることが明らかになりました。腸内細菌には消化酵素を持つものが多く、肌を刺激する菌も存在することもわかってきています。そこで、臀部における菌の種類と肌の状態について検討を深めました。

皮膚スコアと皮膚上の腸内細菌類の比率との関係性

保護者が自宅にて撮影した生後4〜８か月の乳児36名の肛門周囲部、排尿部、臀部の写真について、専門家が皮疹スコア判定を行いました。また、乳児の臀部の菌叢解析を行い、皮膚常在菌や腸内細菌の相対存在比率を検討しました。
皮疹スコア（紅斑と浮腫および丘疹と膿疱を有症面積と数からそれぞれ7段階で評価し、肛門周囲部・排尿部・臀部の肌の合計を求めました）と臀部の皮膚常在菌類や腸内細菌類の相対存在比率の関連性を検討した結果、皮疹スコアと腸内細菌類の比率に有意な正の相関がみられました(図3)。