「口腔内の菌が他臓器に感染症を起こし得ることの初の証明」
独立行政法人国立病院機構・姫路医療センター呼吸器内科の勝田倫子医師らのグループとサンスターとの共同研究で
肺膿瘍や膿胸から検出される菌は、口腔内細菌叢の菌と種類が一致することから口腔に由来すると考えられてきたものの、いままで確固たる証拠がありませんでした。
そこで独立行政法人国立病院機構・姫路医療センター呼吸器内科の勝田倫子医師らのグループとサンスター株式会社は、共同研究により、肺膿瘍・膿胸から採取した膿の中の細菌と口腔の細菌とが遺伝子的に一致することを確かめることに成功しました。
この研究成果をまとめた論文は2022年 2月16日に米国の細菌学会誌であるMicrobiology Spectrum にオンライン公開されています。
この結果から、今まで状況証拠しかなかった、口腔の細菌が肺に感染症を起こし得ることの確実な証拠が示され、口腔内を清潔に保つことの重要性を確認するとともに、本研究に用いた手法が後述するように幅広い研究に寄与する可能性が示唆されました。
同研究を成功に導いた重要なポイントは2点あります。
一つは、肺膿瘍や膿胸からのサンプルを口腔内の菌の汚染を避けて経皮的に採取したこと。膿胸の検体を経皮的に採取することは容易ですが、肺膿瘍の場合は従来、口から入れた気管支鏡を使ってサンプルを採取する方法が行われてきました。
しかしこの方法ではサンプルが口腔の細菌に汚染される可能性があります。同グループは以前から、肺の病巣に対して経皮的に細い針を刺して1回の息止めの間にサンプルを採取するという技術をもっており、肺の病気の診断に活用してきました。
肺膿瘍の診断にもこの方法を使い口腔細菌の汚染なくサンプルを採取し、正しく原因菌を決定することで適切な抗菌薬の選択を行ってきましたが、この方法が今回の研究にも大きく寄与しました。
二つ目が遺伝子的に一致する菌か否かを調べる新たな手法を開発した事があげられます。口腔内には無数の菌がいますが、その中に肺膿瘍や膿胸から検出した菌と遺伝子が全く一致する菌が存在するか否かを調べることは困難だったため、新しい方法を開発する必要がありました。
肺膿瘍や膿胸が口腔内細菌に起因するということは従来、状況証拠のみに基づく「医学の常識」でしたが、同研究はこの常識に絶対的な根拠を与えました。
さらに同研究で開発した口腔内細菌叢と他臓器感染症との関連性を証明する手法は画期的と言えます。人体には口腔だけでなく腸、皮膚、膣などにも細菌叢が存在し、さらに環境の中にも土壌、建築内などにも細菌叢があり、これらと疾患との関わり、さらに予防法などについての研究を促進するものと考えられます。
健康ジャーナルライター
ホリスティック・ ジャーナル