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国内がん関連遺伝子検査市場規模は拡大傾向


ゲノム医療やゲノムデータの活用に期待かかる

矢野経済研究所は、国内のがん関連遺伝子検査市場を調査し、各種の体外診断用医薬品、医療機器の普及動向、参入企業の事業展開、今後の方向性などを明らかにしました。

遺伝子検査は、病原体の遺伝子の検査、ヒト体細胞の遺伝子検査および、その変化が遺伝的に継承される遺伝学的検査の大きく3つに分けられます。
ヒト体細胞の遺伝子検査では、遺伝子解析技術の向上により、がん細胞に含まれる遺伝子変異の特定が可能となりました。がん細胞の遺伝子情報を詳細に解析して、特定の遺伝子変異に効果の高い薬剤を選択することで、治療効果の向上や副作用リスクの低減が期待され、がんゲノム医療が注目されています。
がん関連遺伝子検査には、がん細胞内の特定の遺伝子変異を発見し、個々の患者に最適な治療法を見つけるコンパニオン検査(診断)に加え、がん細胞に含まれる大量の遺伝子を網羅的に解析する、がんゲノムプロファイリング検査(がん遺伝子パネル検査)などがあります。がんゲノムプロファイリング検査では、がんとの関連が知られている遺伝子変異を網羅的に調べ、標準治療が無い、または終了した患者を対象に次の薬物療法を探索します。

政府は、がん対策の一環として研究助成金の提供や規制緩和を進めています。第4期がん対策推進基本計画では、ゲノム医療の推進が強調されており、ゲノム医療を提供するための医療体制が急速に進められ、がん関連遺伝子検査市場の成長を後押ししていますが、一方で、検査データのプライバシーや倫理的問題、検査コストの高さなど、依然として克服すべき課題も存在しています。

マルチプレックスコンパニオン診断薬・装置の普及が進む


がんコンパニオン検査は、がん患者に最適な治療薬を見つけるためにがん細胞の遺伝子やタンパク質を調べ、治療効果や副作用のリスクを予測するために行うがん関連遺伝子検査です。コンパニオン診断薬は、1つの遺伝子変異やタンパク質に対して、1つの診断薬を用いることがこれまで一般的でしたが、近年では一度の検査で複数の遺伝子変異を検出することのできるマルチプレックスコンパニオン検査が上市され、診療報酬制度においても多項目同時検査が推奨されています。
特に肺がん領域では、2019年に非小細胞肺がんに関連する4種類のドライバー遺伝子(EGFR、ALK、BRAF、ROS1)の変異を一度に判定可能なコンパニオン診断システムが上市されたことを契機に、単一検査からマルチプレックスコンパニオン検査への切り替えが進んでいます。その後、同診断システムは、判定可能な遺伝子変異の種類を拡大していることに加え、複数の臨床検査装置メーカーから同様のマルチプレックス検査装置が展開されていることも市場拡大の要因となっています。

2023年度の国内のがん関連遺伝子検査市場規模(メーカー出荷金額ベース)は、がんコンパニオン検査、がんゲノムプロファイリング検査を含めて、前年度比110.5%の137億円と推計されています。2024年度の同市場は同107.3%の147億円と予測され、がん関連遺伝子検査はこれまでコンパニオン検査を中心に展開されていましたが、2019年に、がんゲノムプロファイリング検査が保険適用となったことを契機に市場が伸長しています。

がんゲノムプロファイリング検査は、がんゲノム医療への社会的な期待感に加えて、がんゲノム医療拠点病院の指定など全国で、がんゲノム医療を提供するための体制が整いつつあるようです。検査数の増加率は鈍化しつつあるものの、拡大傾向で推移しています。国策として、がんゲノムプロファイリング検査の推進が図られ、エキスパートパネル(専門家チーム)の検討会議の開催要件の緩和や、エキスパートパネルの簡略化も議論されており、今後もがんゲノムプロファイリング検査数は増加していく見通しです。また、がんゲノム解析の知見が網羅的にカタログ化された結果、がん種横断的に遺伝子変異も発見され、適応がん種以外のがんに対しても分子標的薬の投薬効果がみられます。がんゲノム医療は、これまでの臓器別の治療から遺伝子別の治療にシフトしつつあり、次のステージに突入していると言えそうです。

執筆
代田 多喜子

健康ジャーナルライター

ホリスティック・ ジャーナル

編集長 代田 多喜子


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