国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、所在地:東京都中央区)と国立精神・神経医療研究センター(理事長:中込 和幸、所在地:東京都小平市)などで構成される研究グループは、1990年時点で長野県佐久保健所管内の南佐久郡8町村に在住の40から69歳の約1万2千人のうち、2014から2015年に実施した「こころの検診」に参加した1,204人のデータから、野菜・果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取とうつ病との関連を調べました。
その結果、果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、うつ病が発症するリスクが低いことがわかりました。
この研究は、「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」(主任研究者:澤田典絵 国立がん研究センターがん対策研究所)の成果で、国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部(JH)横断的研究推進費の支援も受けて実施し、2022年9月26日に国際学術誌「Translational Psychiatry」にて発表されました。
こころの不調のなかでも、うつ病は、障害によって失われた健康的な生活の年数が循環器疾患と同じ程度で、個人にとっても国全体にとっても負担が大きいことで知られています。先行研究では、野菜や果物の摂取が、うつ病に予防的に働く可能性が示されており、とりわけフラボノイド(ポリフェノール化合物)は脳由来神経栄養因子や、酸化ストレスと神経炎症の抑制作用により抗うつ効果を持つことが示唆されていました。そこで、今回の研究では、野菜・果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取が、うつ病のリスク低下と関連するかどうかを調べました。
前出の1,204人を対象とし、2回のアンケートから、野菜、果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取量の平均値を計算してそれぞれについて人数が均等になるように5グループに分け、摂取量が最も少ないグループを基準とした場合の、他のグループのうつ病の発症リスクとの関連を調べました。また、野菜・果物に関連する栄養素として、α-カロテン、 β-カロテン、ビタミンC、ビタミン E、葉酸の平均摂取量とうつ病との関連も検討しました。解析時には、年齢、性別、雇用、飲酒、喫煙、運動習慣の影響を取り除くよう、統計学的に調整しています。
1,204人のうち、93人が精神科医によってうつ病と診断され、解析の結果、果物の摂取量が最も少ないグループと比較して、摂取量が最も多いグループにおけるうつ病のオッズ比は0.34(95%信頼区間: 0.15-0.77)で、フラボノイドの豊富な果物の摂取量が最も少ないグループと比較して、摂取量が最も多いグループのうつ病のオッズ比は0.44(95%信頼区間: 0.20-0.97)でした。一方、野菜ならびに関連栄養素の摂取量と、うつ病との間には関連がみられませんでした。
その結果、果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、うつ病が発症するリスクが低いことがわかりました。果物全体と、フラボノイドが豊富な果物の両方について最も多く摂取したグループで、うつ病のオッズ比が低かったことから、フラボノイド固有のメカニズムというよりも、果物全体が持つ抗酸化作用などの生物学的作用により、うつ病の発症に対して予防的に働いた可能性が考えられます。一方、野菜や関連する栄養素と、うつ病との関連は見られませんでした。
この研究では、調査開始時点のうつ状態が野菜果物の摂取量に影響を受けていた可能性が除外しきれないこと、中高年における研究結果であるため若年者などにも当てはまる結果であるとは言えないことなどが限界点と考えられます。今回の研究の範囲内では、果物摂取量が高いグループほどリスクの低下がみられたましたが、今回の結果を検証するために今後のさらなる研究が待たれます。
健康ジャーナルライター
ホリスティック・ ジャーナル