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オメガ6脂肪酸の男性ホルモン産生における役割を解明~加齢男性性腺機能低下症候群への治療応用の可能性~


順天堂大学大学院医学研究科生化学・細胞機能制御学の研究グループは、オメガ6脂肪酸の男性ホルモン産生における役割を解明しました。オメガ6系の高度不飽和脂肪酸は従来から精巣に多く存在することが知られていましたが、その生理的意義はよく分かっていませんでした。
研究グループの解析の結果、オメガ6系の高度不飽和脂肪酸が男性ホルモンの元となるコレステロールの貯蔵に重要であることを発見しました。
本成果は、テストステロン補充療法以外に根本的な治療法が無かった加齢男性性腺機能低下症候群に対してオメガ6脂肪酸の投与による新規治療法の可能性を示すもので、本論文はCommunications Biology誌に2022年9月21日付で公開されました。

加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群、Late-onset Hypogonadism Syndrome)は、全身の疲労感や倦怠感、性欲低下などの身体的症状と、集中力の低下や抑うつなどの精神的症状を特徴とする中高年男性における疾患で、日本には600万人の患者がいるとされています。男性ホルモンであるテストステロンの減少が主な原因で、テストステロン注射などの補充療法が一般的に用いられています。   
一方、男性ホルモンの産生や精子形成を担う精巣では、他の臓器に比べてオメガ6系の高度不飽和脂肪酸が非常に多く存在することが知られていましたが、その生理的意義はあまり分かっていませんでした。

研究グループは高度不飽和脂肪酸の生理的意義を解明することを目的に、高度不飽和脂肪酸の生合成を担う脂肪酸不飽和化酵素であるFADS2(Fatty Acid Desaturase 2)に着目し解析を行ってきました。そして、今回、マウス精巣において男性ホルモン産生を担う細胞であるライディッヒ細胞にFADS2が高発現することを見出し、FADS2のライディッヒ細胞における生理機能を解明することを目的として様々な生化学的解析を実施しました。

この研究では、FADS2を特異的に認識する抗体を作製し、その抗体を用いて免疫組織学的解析を行ったところ、マウス精巣ではFADS2は男性ホルモン産生を担う細胞であるライディッヒ細胞に非常に高発現していることがわかりました。
そこで、FADS2の男性ホルモン産生における役割を調べるため、阻害剤やゲノム編集技術を用いてFADS2を阻害したライディッヒ細胞を作製し、男性ホルモンの産生能を調べた結果、FADS2が阻害されたライディッヒ細胞ではテストステロンなどの男性ホルモンの産生量が顕著に低下していることがわかりました。結果として、FADS2の阻害により減少したオメガ6系の高度不飽和脂肪酸を細胞やマウス個体に投与したところ、男性ホルモンの産生量が回復することもわかったのです。

ライディッヒ細胞では男性ホルモンの前駆体となるコレステロールが脂肪滴に貯蔵されており、脂肪酸とエステル結合したコレステロールエステルの形で存在します。コレステロールエステルの脂肪酸としてオメガ6脂肪酸が多く結合していることから、コレステロールエステルからコレステロールを切り出す酵素であるホルモン感受性リパーゼの酵素活性を調べたところ、オメガ6脂肪酸が結合したコレステロールエステルをより好んで切ることがわかりました。

つまり、精巣ライディッヒ細胞ではFADS2の働きによりオメガ6系の高度不飽和脂肪酸が積極的に生合成され、男性ホルモン産生に適したコレステロール前駆体の貯蔵を促進していることが明らかになったのです。

今回の発見から、オメガ6系高度不飽和脂肪酸の補充療法が加齢男性性腺機能低下症候群の新規治療法として用いられることが期待されます。

執筆
代田 多喜子

健康ジャーナルライター

ホリスティック・ ジャーナル

編集長 代田 多喜子


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