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治療より予防の時代


今、近代医療は大きな転換期を迎えていると言われています。その要因として様々な要因が考えられますが、専門家が主に挙げている理由は次の3つです。

1 患者の病気を治すことに重点を置いた従来の治療から、病気にならないようにする予防治療にシフトしている
2 燃料や電気など地球資源を使う贅沢な近代医療から、資源の有効利用を重視したエコ医療への関心が急速に高まってきた
3 自分自身で自らの健康を守るセルフケアの時代に入ってきた

これら要素を鑑みると「病気になったから治療を受ける」のではなく「病気を予測して対策をとる」ことが当たり前の時代になっていくのでしょう。
昨年、厚労省が健康づくりのためのガイドラインを10年ぶりに改訂したのも、こうした流れを受けてのことと考えられます。
ガイドラインでは健康的な食生活や運動指針が示されていますが、これだけでは疾患を予測することは難しいでしょう。
疾患を予測し予防ケアを確実なものにするためには、遺伝子検査が最も有効ではないでしょうか。

予防としての遺伝子検査


遺伝子とは、人間の体をつくるための「設計図」、いわば究極の個人情報です。遺伝子を構成しているのはDNA(デオキシリボ核酸)ですが、このDNAの違いによって、肌や目の色、顔貌、体型といった見た目や、性格や才能などの個性、特定の病気にかかりやすい、かかりにくいなど、目に見えない体質が決まります。

心身の健康状態や個性は、遺伝だけでなく生活環境によっても変化しますが、遺伝子の情報は、後天的遺伝子修飾などを除き、基本的に生涯変わることはありません。同じ疾病であるにも関わらず、ある人には良く効く薬が、別の人には全く効かないということがあります。これには遺伝的素因が大きく影響しており、副作用の有無など薬に対する応答性の違い、お酒が強い弱いといった特徴は、生活習慣や環境要因よりも、遺伝子的な要因に、より大きく左右されると考えられています。

人は一生を過ごす間にさまざまな病気にかかりますが、病気の要因は、このように遺伝子素因が原因となる「遺伝要因」と、生活環境や食習慣、睡眠、ストレスなど生活習慣による影響が原因となる「環境要因」とに大きく分けられます。

しかし、特定の病気に対して遺伝的な危険因子を持っているからといって、必ず発症するというわけではありません。病気の発症は遺伝要因と環境要因が絡み合って起こるもので、あくまで遺伝要因はリスクの一つでしかないのです。

日本人に多い、がん、高血圧、糖尿病は、遺伝による体質ばかりでなく、生活環境も大きく影響する病気であり、がん家系だからといって必ずがんが発症するわけではありません。遺伝子解析技術の発達により、今や誰もが気軽に遺伝子検査を受けられるようになりましたが、遺伝子情報ですべての病気の予測や治療ができるとは考えないでください。病気の危険因子がわかったところで、それがそのまま治療に活かせるわけではありません。

確かに遺伝子検査によって、自分がかかりやすい病気を知ることは大事ですが、もっと重要なのは「将来的に起こりうる疾病を予防するには、具体的に何をすれば良いのか」ということです。

例えば、ホモシステインというアミノ酸が過剰になると、血管内皮細胞を阻害することで動脈硬化症や虚血性心疾患の原因となるばかりでなく、うつ病、統合失調症、アルツハイマー型認知症などの精神疾患のリスクも高まることがわかっていますが、ホモシステインの調節には、葉酸代謝に関わるMTHFR遺伝子が重要な役割を果たしています。もし、MTHFR遺伝子に変異がある場合、何も対処しなければ前述の疾患が生じやすくなる可能性がありますが、自身の遺伝子的な特性を知った上で、適切な対処を行うことで、将来起こりうる疾病リスクを減らすことができるのです。

遺伝子検査を疾病予防に活かす


自分の遺伝的な特性をただ「知る」ためだけに遺伝子検査を利用するのではなく、それを知った上でさらに、科学的根拠のある方法で病気の発症を防ぐことができてこそ、はじめて遺伝子検査が健康維持に役立つものになります。
ヒトゲノム完全解読を機に、生命科学は飛躍的に発展しましたが、中でも解析機器の進化は目覚ましく、次世代型メタゲノム解析の登場により、これまで不可能とされていた分野の研究が急速に進みました。
日々進化を遂げる遺伝子検査ですが、遺伝子とは、私たちの細胞一つひとつにおさまっている「生命の設計図」です。それは親から子どもへと伝えられるだけでなく、個々人の遺伝子型はそれぞれに異なり、また受け継がれた遺伝子は、後天的遺伝子修飾などを除き原則的に生涯変わりません。
そういった特徴を踏まえ、遺伝子検査では個々人の体質、将来どんな病気にかかりやすいか、どんな適性があるかなどを調べていきます。
内容としては、一度の検査で多くの項目(疾病リスクや体質など)を解析できる遺伝子検査のほか、がんのリスクに特化した遺伝子分析、三大栄養素の代謝に関わる食事遺伝子や、運動能力・アルコール代謝に関わる3~5項目を調べる簡易遺伝子検査などがあります。
DNAの情報は、設計図の原本に相当し生涯変わらないため、これらの検査は一生に一度行えば良いものです。
一方で、設計図の原本から転写した作業用のコピーといえるRNA(リボ核酸)の情報は、その時々によって検査結果が変わりますが、極めて早期から体内で起こっている微細な変化を捉えることができます。
具体的には、mRNA(メッセンジャーRNA)の発現解析による超早期がん検査や、老化を遅らせ長寿に働きかけると言われる〝サーチュイン遺伝子〟の活性度を測定する長寿遺伝子検査などがあります。
こうして遺伝子的な特性による疾病リスクが予測できれば、発症を防ぐための食事療法、運動療法などのほか、必要に応じて点滴療法やサプリメントの摂取など、様々な早期対策が可能となり、病気を未然に防ぐことが可能となるでしょう。

執筆
代田 多喜子

健康ジャーナルライター

ホリスティック・ ジャーナル

編集長 代田 多喜子


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