矢野経済研究所が、国内の健診・人間ドック市場を調査し、市場概況、将来展望を明らかにしました。
法定健診には、地方自治体が実施する住民健診や、企業・団体等が従業員向けに実施する定期健診、結核・肺がん検診、母子健康法・学校保健法などに基づく健康診断、後期高齢者向けの高齢者健診などが含まれます。そのうち、40歳以上74歳以下の公的医療保険加入者全員が受診する特定健康診査(特定健診)が、生活習慣病の早期発見・治療を目的として2008年から実施されています。その他、利用者が任意で受診する人間ドック等の任意健診も実施されており、本調査における健診・人間ドック市場はそのいずれも対象として算出しされています。
厚生労働省の2022年度「国民生活基礎調査」によりますとと、40~74歳の男女が過去1年間に健診(特定健診や人間ドックも含む)を受診した割合は73.1%であり、健診・人間ドックの受診率は年々上昇傾向にあるものの目標には至ってはいません。また、厚生労働省の特定健康診査・特定保健指導に関するデータでは、特定健診・特定保険指導の受診率も同様に、2021年度の受診率は特定健診で56.5%、特定保健指導が24.6%と年々向上しているものの、国が掲げた目標(特定健診受診率70%以上、特定保健指導同45%以上)とは引き続き乖離がみられます。そのため、2024年度から開始となる第4期特定健診・特定保健指導に向けて、特定健診・特定保健指導の受診目標の見直しや主に標準的な質問項目の変更、特定保健指導のアウトカム評価の導入、ICTの活用を推進していく方針が示され、健診施設や保険者(健保組合等)に対しては効率的かつ効果的に健診の実施が求められています。
2022年度の国内健診・人間ドック市場(受診金額ベース)は、前年度比101.7%の9,370億円と推計されています。これまで、生産年齢人口の減少や特定健診の受診率上昇などの要因から、市場は横ばいまたは微増傾向で推移してきました。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う受診控え、健診業務の一時休止の影響で、2020年度は受診者数の減少もあり、2020年度の健診・人間ドック市場は同91.4%と縮小しています。2021年度以降は、コロナ禍の影響が一部継続しているものの、概ねコロナ禍前の水準まで市場は回復しました。
今後、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類へ移行したものの、健診施設での感染症対策はしばらく実施されていくものとみられ、特に人口の多い都市部の健診施設では感染症対策が必須となり、受診時間を短時間にすることが他施設との差別化要素となることも考えられます。コロナ禍を契機として、より健康・予防に対する人々の意識は高まっており、健診・人間ドック市場への追い風となると考えられます。市場は以前の様に横ばいまたは微増傾向で推移していく見込みで、2023年度の健診・人間ドック市場は前年度比100.7%の9,440億円になると予測されています。(グラフ1)
検診施設ではオプションの検査項目で差別化を図る
健診施設では、受診者受け入れ拡大のための他施設との差別化ポイントの1つとして、受診者のニーズに対応した人間ドックのオプション検査を導入することで、受診者の獲得を図っているとみられます。本調査に関連し、2023年8~9月に健診実施施設に対して郵送アンケート調査を実施し、106件の回答を得ています。
人間ドック標準検査以外のオプション検査として実施件数の多い検査項目(複数回答)について尋ねたところ、「PSA(Prostate Specific Antigen=前立腺特異抗原)検査」の回答が最も多く46件(構成比43.4%)です。次いで「上部消化管内視鏡検査」が41件(同38.7%) 、腫瘍マーカーである「CEA」および「CA19-9」が34件(同32.1%)と続いています。その他、他の腫瘍マーカーや婦人科領域、脳神経領域の検査も比較的多い傾向が見られます。また、今後注力していきたい分野を聞いた質問では、「人間ドック」という回答が多く挙げられ、2021年調査同様に人間ドックが注目される分野・市場であることが示唆される結果となっています。(グラフ2)
健康ジャーナルライター
ホリスティック・ ジャーナル